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未然防止か事後救済か②

国民は税金を払っている主権者ですから、自らの主権を侵されるようなことがあったとしたら主張するのは、当然の権利です。ところが、それは言葉を選ばずに言うと、一方的に「あんたが悪い」と非難しているようなことも多々あるような気がしてなりません。先に挙げた子供が親のクレジットカードを使った事例や、妻名義のクレジットカードを使っていた夫が家出して支払いが妻に残った、といった事例のような場合、名義が違うカードを他の人が使える情況を許していること自体が悪い、と指摘されることがよくあります。

でも、それらは家族や夫婦の問題がクレジットカードの問題にすり替わっているだけで、クレジットカードの問題の本質とは言えません。交通事故や身体に影響を及ぼすような事故の防止には、もちろん高いコストがかかりますが、こんにゃくゼリーやライターの問題のように、身近にいる人が気をつけていれば起こらなかった事故もあるはずです。こういった事件が起きると、必ずといっていいほど行政の規制に疑問が投げかけられます。

そして、行政が対応を決めて新たな規制が生まれます。権利の主張といえばそれまでかもしれませんが、一つの規制が生まれるまでには、勝手に担当の大臣が決めるわけではなく、担当の課が法案を書き、審議会を開いて、その上で国会に諮るのが定番のルートになっています。見えにくいコストとはいえ、それは確実に国民に跳ね返っているのです。

未然防止か事後救済か①

明治維新までの日本語には、英語の「right」に対応する言葉がなく、「権利」は訳語として作られたものです。作ったのは福澤諭吉だそうです。当時は「権理」と書いていましたが、現在では「権利」と書きます。明治維新からもうすぐ一五〇年になろうとしていますが、日本人に本当の権利意識は根付いているのでしょうか。『日本人の法意識』(川島武宜、岩波新書)で読んだ話ですが、権利意識の高いドイツでは、優先道路と非優先道路があるとすると、優先道路を走っている車はなんら注意をせずに普通に走るそうです。

事故があった場合は、優先道路を走っていた車は過失相殺を問われることもなく、非優先道路を走っていた車が一〇〇%悪いことになります。似たような話は、ヨーロッパの他の国でも聞いたことがありますから、今でも同じ状況だと思います。わが国でこのようなケースがあると、いくばくかの過失相殺があるので、優先道路を走っていたとしても無罰に終わることはありません。

何故このように対応が違うかというと、これは国民性という言葉以外に説明のしようがありません。それどころか、信号を設置していなかった行政が悪い、となりがちです。人が池に落ちる事故が発生すると、柵がなかったのが悪い。こんにゃくゼリーを食べて死んだら、メーカーが悪くてそれを指導しなかった行政が悪い。ライターをいたずらして火事が起きたら、メーカーが悪くてそれを指導しなかった行政が悪い、といくらでも過失を問う材料を挙げることができます。

デビットカードとクレジットカードの消費者保護②

ほとんど同じような経済効果を消費者にもたらす二つのカードの消費者保護規定が不整合というのは違和感があります。銀行とノンバンクの消費者対応の仕方は、そもそも文化的ともいえる違いがあるので、法律で埋めるのであればしっかりと埋めておくべきです。良し悪しは別にして、銀行がノンバンクの領域に入ってきた以上、ノンバンク関連の二法を統一して「統一消費者信用法」に整理統合することは重要です。さらに近隣に存在する銀行も、対消費者取引の分野は、その枠組みの中で整理した方が消費者にとってもわかりやすいものになるのではないでしょうか。

消費者目線といいますが、これほど複雑な法体系が存在すること自体が消費者目線ではないと言わざるを得ません。ただし、この複雑な法体系の裏をかくようなこんなシステムが出てきたら、もっと加盟店も消費者も幸福になれるかもしれません。ほとんど使われる場面を見たことがない「Jデビット」ですが、クレジットカードに比べると加盟店手数料はかなり安くなっています。それをもっと利用しやすいように、キャッシュカード流用型ではなく専用のカードを発行し、加盟店手数料を上げ、その分は人気のあるポイントやマイレージに還元する。それでも加盟店手数料はクレジットカードよりも安く、カードホルダーにも有利な分配ができるはずです。

リボが必要な人には預金口座の貸し越し機能、もしくはカードローンを提供します。貸すのは銀行ですから貸金業法の規制対象にはならないし、割賦販売法で規制することも困難です。Jデビットがこのように衣替えすれば、わが国の決済環境は劇的に変化するはずです。銀行の景品規制は厳しいのですが、もし実現すれば、加盟店にも消費者にも有利な環境が整います。また、消費者の信用度に応じた与信も可能になります。最上位の人はJデビットを使い、銀行に取引してもらえない人はクレジットカードが担当し、カード会社も難しい人には貸金専業者が対応する。信用度に応じた与信システムは理想ですが、こういった棲み分けがあってもいいと思います。

デビットカードとクレジットカードの消費者保護①

同じビザのマークがついているだけですから、手にしてビザのデビットカードとクレジットカードの違いがわかる人は、こういった問題にかなり知識を持った人です。加盟店で判別される必要性はまったくありません。加盟店では、端末を通したときにオーソリゼーションが取れれば何も問題はないからです。利用者は、毎月分をまとめて決済する選択肢と、その都度決済する選択肢のどちらを選んだかはわかっているので、どちらを選ぶかは利用者の責任です。

しかしカード情報が流出すると、複雑な問題が起こります。クレジットカードは、二〇〇八年改正の割賦販売法でその情報保護が新設規定として盛り込まれましたが、そこで規定しているのは割賦販売法第2条の定義にはない一括払いのクレジットカードまでです。第35条の36がその規定ですが、第2項に「二月払購入あっせん」という聞いたことのない取引が書かれています。割賦販売法は、すでに書いたとおり定義に該当する取引だけを規制する仕組みになっています。それは特別法としては当然の作り方で、規制が必要以上に広がらないための対応です。

クレジットカードの一括払いは、利用日によっては割賦販売法の定義に該当することもありますが、たいていの一括払いは法律の適用外です。そこで第35条の36という規定の中で、「二月払購入あっせん」を定義づけすることによって、一括払いのカードであってもカード情報の保護の対象にしようとしました。この定義に書いてあるのは「商品を購入する契約を締結したときから二月を超えない範囲内においてあらかじめ定められた時期までに受領することをいう」だけで、デビットカードも対象になりそうにも読めます。

ただし、この条文の表題は「クレジットカード番号等の適切な管理」ですから、デビットカードはやはり想定していないようです。もしデビットカードの情報が流出した場合は、この規定は及ばないのです。デビットカードでネット通販を利用できる場面はそれほど多くないし、暗証番号での利用に限定され利用の都度メールを送るなど防御にも工夫がこらされているので、仮にカード番号が流出したとしても、クレジットカードのように簡単に利用できるわけではありません。

クレジットカードとデビットカードの利世頻度

経済産業省が作成した資料をベースに、キャッシュレス決済に占めるクレジットカード決済の比率を算出したものを見ると、クレジットカードとデビットカードをひとまとめにしているフランスを除くと、わが国はキャッシュレス決済のほぼすべてをクレジットが占めていることがわかります。つまりわが国では、デビットカードという選択肢がなく、キャッシュレス決済を消費者が望んだ場合はクレジットカードを選ばざるを得ない状況にあるということです。この意味からも銀行はデビットカードにもっと力を入れるべきだと思います。

ただ、ここで注意しなければならないのはキャッシュレス決済の定義です、市中で買い物をするときの代金支払いに限定するのか、それともそれ以外の支払いもキャッシュレス決済にするのかです。家賃という支出を例にしてみましょう。家賃は店子が大家に月末に持参するのが昔からの伝統です。銀行の自動振替が利用されるようになる半世紀ぐらい前までは、一般的だった支払い方です。現在、家賃の支払いで大家さんに現金を持参する店子はかなりの少数派です。理由は、金融機関の自動振替が利用されているからです。公共料金や税金、スポーツジムの会費なども自動振替が利用されています。

おそらく一般的な年収の家庭の支出額のうち、毎月の自動振替の額を考慮に入れると、かなりの割合をキャッシュレスが占めているものと思います。請求額を銀行任せにして、自動的に振り替える制度は、わが国独自の制度のようです。小切手が利用されている国では、請求金額を確かめて金額を自身の手で小切手に書き込み、郵送することで支払いを済ませています。最近ではインターネットバンキングが利用されているようですが、こういった習慣は決済に関する自己責任の意識に強い影響を与えているように思います。この間題は最後に整理してみることにします。